お知らせ

チベット応援団ブログ 小川真利枝さん(ドキュメンタリー作家)

タシデレ!
チベット応援団ブログ、今回からいよいよゲストをお迎えします。
初のゲストはドキュメンタリー作家の小川真利枝さんです。
小川さんの代表作である「ラモツォの亡命ノート」は、チベットで政治犯として不当逮捕された夫を待つ妻、ラモツォの生活を追った8年間の記録。ラモツォはインド、ダラムサラの道端でパンを売って家族を養い、やがて夫と再会し、アメリカで新たな暮らしを始めます。

小川さんの活動、そしてラモツォたちチベット人の魅力を伺いました。

退職届を出した翌日にダラムサラへ

きっかけは「セブンイヤーズインチベット」

Q.チベットに関して、これまでどのような活動をされてきましたか?

2017年に映画「ラモツォの亡命ノート」を公開しました。ダラムサラで出会った女性を8年ほど追いかけた映像をまとめたものです。さらにその映像には少し続きがあるので、10年分の記録をまとめた書籍「パンと牢獄」を発表した、というのがチベットに関する活動になります。

Q.チベットにのめり込んだきっかけ、関わることになったきっかけはなんですか?

中学の時に映画「セブンイヤーズインチベット」を観て憧れたのが一番最初です。お坊さんが山の風景に溶け込んでいる感じを見て「行ってみたい!」と思って、大学4年生で初めてチベットに行きました。その時チベットには暗い歴史もあるんだなと感じて、そこからチベット亡命者に関心を持つようになりました。社会人になってから中原一博さん(※インド、ダラムサラで活躍されている建築家)のブログを見て連絡を取って。その時映像の制作会社に居たのですが、退職届を出した翌日にダラムサラに飛んでいました(笑)。これが最初のダラムサラ行きで、そこからカメラを回しはじめたのがスタートです。

殺さずに逃がす、感謝して食べる

ラモツォの家族たちと

Q.チベットに関わるお仕事を通して、印象的だった出来事はありますか?

家族を撮っている中で魅力的だと感じたのが、どんな時でもユーモアを忘れず笑顔があることです。耳で聞くだけだとものすごく悲惨で大変な状況なんですけど、それを笑って乗り越えている姿というのが魅力的で、その部分を大切に撮影、執筆しました。

自分が大変な状況なのに周りの人にも手を差し伸べたりだとか、動物や小さい虫にも優しかったりだとか、そういうところを見ると、自分自身が生き方に影響を受けるところがたくさんありました。ラモツォは雨上がりに道端で巡礼している時、道に出てきたミミズを一匹一匹よけたりするような人ですし、子供たちもアメリカで、家に出たネズミをすごい楽しそうに退治していたり。私が「毒団子で殺しちゃえば」と言ったら「殺さずに逃がすんだよ」って怒られたりとか。

あとは肉を食べる時も本当に感謝して食べます。みんな肉は大好きですけど、感謝して美味しく食べる。そういうところが本当に魅力的だと思います。

震災遺族とチベット人の死生観は似ている


東北にて

魂はずっと生きている

Q.現在はどのような活動をされていますか?

いまは東日本大震災の津波で息子さんを亡くしたご夫婦をずっと取材しています。ちょっとチベットとつながるところがあるなと思うのは、そのご夫婦が息子さんと今も一緒に生きている感じなんです。肉体は無くなっているんだけれど魂と一緒に生きているというような感覚で。チベットでも魂は輪廻転生するという、肉体は無くなっても魂はずっと生きているという死生観を皆さん持っていて、重なるなぁと思う部分がありますね。ご夫婦は息子さんが亡くなった宮城県の女川町に自分たちで慰霊碑を建てて、そこで語り部をされています。6年前から取材を続けています。

その方たちは震災だけではなくて、日航機墜落事故が起きた群馬の御巣鷹山だったり、JR福知山線の脱線事故現場などにも行って慰霊の旅をされています。自分たちと同じように、不条理の中で家族を亡くした方たち…そういうご家族ってけっこう繋がるんですよ。家族を亡くした方々が繋がって、皆さん慰霊の日には現場に集まったりとか。魂が眠る場所に足を運んで慰霊をするというのが、彼らの癒しというか、自分の中での宿命みたいになっているのかな。そこに同行させてもらいながら取材をしています。

巡礼で芽生えた「シェアする心」


サキャで出会った家族

何か持っていたら与えたい

Q.チベットに関わるようになってご自身の中に変化が起きたことはありますか?

初めてチベットを旅した2007年、サキャ(※チベット南部の県)の巡礼宿である家族と出会って、一緒にサキャのお寺とかを巡礼したんですけど、皆さんの持っているツァンパや干し肉やチーズをシェアしてくれて。チベットの人たちって何か持っていたら与えたい、シェアしたいっていう気持ちがあって、そういうシェアする心みたいのは私も少し芽生えたかな。迷った時に自分が得する方を選ぶより、チベットの人ならどうするかなって考えるようになりました。チベットの人たちの考え方、行動の姿勢ってわたしにとってはすごく学ぶところがあって、根本は慈悲=「利他」ってことなんですけど、そこは自分も時々悩んだ時に考えたりします。なかなかできてないですけどね。

私のチベット料理「ラモツォのパン」


道端でパンを売るラモツォ


ラモツォの手作りパン

Q.最後に、印象的だったチベット料理を教えてください

やっぱりラモツォのパンかな。このパンがなかったら私の10年はなかった!

ダラムサラに1年滞在した時、毎朝お寺で100回五体投地をやって、帰りに道端でラモツォのパンを買って朝ごはんにしてたんです。それが全ての始まりです。ラモツォが作るパンは本当にシンプルで素朴なんですけど、モチモチしてて甘みがあって。全身の力を込めて、お経を唱えながらこねるのも隠し味ですね。

小川真利枝さん、ありがとうございました!

「ラモツォの亡命ノート」は動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」でも配信されています。ぜひご覧になってみてくださいね。

小川真利枝さんイベント情報

【映画&トーク】『北京五輪に翻弄されて…娘が語る、亡命チベット人家族の14年』

オンラインにて2月6日開催!

詳細・お申込みはこちらから。

2022年2月、北京五輪が開催されます。
その 14 年前の 2008 年。ひとりのチベット人が、北京五輪について
チベット人の率直な思いを映像にまとめ、発表し逮捕されました。
彼の名は、ドゥンドゥップ・ワンチェン。
政治犯として 6 年の獄中生活を経て、2017 年に米国に奇跡的に亡命を成功させました。

彼が制作し逮捕のきっかけとなった映画と、その家族の軌跡を追ったドキュメンタリー映画の上映、そして家族の長女で米国に暮らすダドゥンをオンラインでつなぎ、14 年前からこれまでのこと、北京五輪 2022 への思いなどを語ってもらいます。
北京五輪の影で、中国の少数民族がどんな思いを抱いているのか――。
ぜひ、お越しください。

小川真利枝さん プロフィール

小川真利枝(おがわ・まりえ)
ドキュメンタリー作家。1983年フィリピン生まれ。千葉県で育つ。早稲田大学教育学部卒業。
2007年はじめてチベットへ。2009年にチベット亡命者の町インドのダラムサラで撮影を始める。
チベット亡命家族を追ったドキュメンタリー映画『ラモツォの亡命ノート』(2017)を劇場公開。家族のその後を綴ったノンフィクション『パンと牢獄〜チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート』(2020)は、
第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞。
東日本大震災の取材も続け、ラジオドキュメンタリー『10年目の福島からあなたへ〜詩人・和合亮一が刻む生きることば』(2021)は文化庁芸術祭出品作に選ばれた。

 

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“チベット応援団ブログ 小川真利枝さん(ドキュメンタリー作家)” への2件のフィードバック

  1. 宮下孝一 より:

    チベット、ダライラマ、ダラムサラ、ラモっツォ、小川真利江、タシデレ、
    もっともっとひろがると良いですね!

  2. さかちゃん より:

    「ラモツォの亡命ノート」拝見しました。チベット難民の現状が皮膚感覚で伝わってくる素晴らしいドキュメンタリーだと感じました。最近は、ウイグルの問題が世界的に大きな関心事となっていますが、チベット問題もより多くの人々に共有されることを願ってやみません。私も1987年にチベット本土からインドのダラムサラまで旅したことがあり、チベット人の人権問題には関心を抱いてきましたが、解決の糸口が見えないまま年月だけが過ぎていくことに、悲しみしか湧いてきません。しかし、そんな現状だからこそ、小川さんのような地道な取材活動が貴重なのですね。心に残るとても良い作品をありがとうございました。

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